とはいえ、僕の知識でカバーされている理解力では、一度読んだだけでは正しく理解出来る代物ではない。
何しろ不確実性科学の専門家にしてトレーダーである著者が、金融市場と日常が如何に「偶然」によって成り立っているのかを、経済学は元より、確率・統計論、哲学、進化論、心理学、生物学、遺伝子論、果ては神話などまでを深掘りし、それらの間を縦横無尽に行き来しながら、独自の考え方を示しているのだ。
僕は、これらの学問のどれ一つを取ってもきちんと取り組んだことのないのであるから、なにをや言わんである。
ただ、苦しみながらも読み終えた上で感じ取れた事は幾つかあった。
最も強く残っているものとしては、この世の中では、皆が、或いは信用のおけそうな人物が良いとしていることで半ば常識とされている事でも、そのまま鵜呑みにしていてはならないと改めて再確認したこと。
人間は経験からしか物事を判断出来ないという前提に立った考え方だ。いわゆる懐疑主義、実証主義の観点だ。特にインターネット上での情報の洪水には気を付ける必要がある。無自覚なインプットは方向性を間違う可能性もある。
またもう一点は、この本の核心部分でもある「偶然性」である。人生は何と偶然性(ランダム)に影響されているのかとの気付きは非常に大きい。
そして、人生とはこの偶然性に対し確率論的に処して行くことを突き詰めることなんだという捉え方である。僕の中に始めて入り込んできた感覚だ。
全ての結果がランダムに訪れるのだとすれば、巷で騒がれている成功や失敗もある意味では偶然の結果だと言える。だとすると、どうすれば成功出来るかだけでなく、どうなれば失敗するかをちゃんと理解して物事を進められているかどうかがとても重要になってくるのだ。(失敗の定義に当てはまったらどうするのかも含めて=事業でいえば撤退戦略)
世の中、成功要因ばかりに目が行きがちだ。
この辺りはもう少し掘り下げたい。最低もう一回は読み返さないとこのモヤモヤは具体的にならない。
あと、少なくとも確率論の理解と、ヒュームやポパーらの懐疑主義者の哲学には触れる必要がありそうだ。
本書には、参考文献も豊富に参照されているので、暫くは読む本に困らなそうだが、どれも高いものが多い。本物だということなのだろう。
お小遣いの配分を考えなくちゃ。