2015/03/24

古典本系008:忘れられた日本人


著者は民族学者の宮本常一さん。

この本は、明治生まれの地方の農村に住む老人たちに、当時の生活状況を聞き歩いてまとめた内容が主体となっています。

現在の歴史学が記録をベースにしているとすれば、民俗学は記憶を土台にして歴史を捉えている分野だと思いました。

もちろん、民俗学も後世に残すために記録はしているのですが、それは、単に過去の文献にあたるだけでなく、実際に人々の記憶を掘り起こして書き留めているところに決定的な差があります。

そういう意味では、宮本さんが掘り起こした明治〜戦後期までのミクロな日本民族の足跡は非常に貴重なものだと思います。

以前読んだフェルナン・フローデルの歴史の捉え方にも通じる考え方です。歴史を時間軸だけでなく、水平(同時代の庶民の 暮らしの視点)にも展開していくことで、政治的なイベントの影響を市井の人々にまで落としこむことで見えてくる世界があります。

ともするとほとんど影響を受けていない、あるいは影響が出るまでに相当の時間がかかる地域や人々もあるわけで、そんなミクロの視点に切り込むことでその時代はなんだったのかと考えることができます。

この本では、主に明治初期から大正前期までを扱っていますが、明治前期の士族の乱から西南戦争に至る過程の西日本での農村部の人々の生活などはとても興味深いのです。

政治的なビッグイベントに少なからず影響されている社会と、静かに時が流れる現実的な生活空間とがモザイク的に折り重なっている。そんな情景が老人たちの声から目に浮かぶようでした。

私自身も幼少の頃は、いろいろな事情で福岡県の田舎で祖父母の手で育ったせいか、実際の情景とは異なるのですが、全編を通してなんとなく懐かしささえ感じてしまいました。

宮崎駿さんも、宮本さんに影響を受けた一人だと聞きます。いずれもう何冊か読んでみたいです。

因みに今は「種の起源(上)」と「ファウスト(下)」を読んでいます。この2冊は4冊分にカウントしますからね。ヘビーです。


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